発酵と腐敗
「発酵」と「腐敗」の相違点はどこでしょうか。
私たち人類は古くから食べられるものと腐敗して食べることができなくなったものを体験的本能により、見分けてきました。
現代文明が栄える前、発酵は、人類が生きるために食物を保存する手段の一つでした。
発酵が微生物により生み出されたということがわかったのはわずか100年程前であり、それまでは食べ物の中には腐ったように見えても食べられるものが存在すること、発酵の過程で生まれる「美味しさ」や「風味」、「栄養価」などを経験に基づき学習し、その知恵と技術を子孫に受け継いできました。
発酵と腐敗には微生物が介在しているという共通点があります。
その微生物の介在により発酵と腐敗の違いはどこにあるのでしょうか。
発酵と腐敗の違いは、我々人類を中心にした影響の結果である
食べ物に元々付着している微生物が、その食べ物の成分を分解して行われる代謝作用の結果の違いが発酵と腐敗に分かれます。
微生物は、肉眼で確認することはできませんが、土壌、空気中、我々の生活圏内のあらゆる場所に無数に存在し、付着しています。
その微生物は我々と同じく生命活動を行うために、栄養を吸収し、代謝物を排出します。
その代謝物が我々人間にとって有益か、有害かによって発酵か腐敗と定義されます。
「発酵」とは微生物の代謝作用により、食品成分を糖類やアルコール、酢酸などを生成します。そのほか、酵素、アミノ酸、ビタミン、ミネラルなども生成し、それらは人間にとって有益な栄養素となります。
主に発酵に関わる微生物の事を総称して「発酵菌」とも呼び、その発酵によって作られる食品の事を「発酵食品」と呼んでいます。
一方、「腐敗」は発酵菌とは違い、人体に有害な食中毒などの原因物質を生みだす微生物の代謝作用の事を指します。主にそのような腐敗を引き起こす微生物の事を総称して「腐敗菌」と呼びます。
微生物にとっては、発酵も腐敗も生命活動を行うことでは同じであるが、結果的に人体にとって有益なものか有害なものかでその違いは分かれます。
ただし、その違いは必ずしも厳密な線引きはなく、食文化によって違いが出ることも否めません。
納豆は日本人にとってはなじみが深く、栄養価も高い発酵食品ですが、欧米人にとっては腐敗と定義されることも少なくありません。
逆をいえば、北欧スェーデンの発酵食品である「シュールストレミング」や、北極圏のイヌイット民族の栄養源である保存食、「キビヤック」などはなじみのない人種にとっては食べる事ができないでしょう。
それらの発酵食品もそれぞれの民族の歴史や伝承により食文化として受け継がれており、今日に至っています。
現代において発酵は、そのメカニズムの解明が進み、食品の栄養価を高めたり、保存する目的以外にも飛躍的な発展を遂げていきます。
現代技術が発展し、微生物の関与が認められるようになるとその技術は様々な分野に応用されるようになりました。
食だけではとどまらない現代の発酵技術
「発酵」とは、人体に有益な作用をもたらす以外にも、大きな役割を担っています。
それは、微生物の生命活動の応用を利用し、食品から産業までその分野は多岐に渡っています。
食品では、伝統食である味噌や醤油などの発酵食品にはじまり、お菓子やパンなどの日常に密接した食品にも発酵の技術が使われていますが、今日では、産業分野でも研究が進み、堆肥づくりや土壌改良、家畜産業や水質浄化などの技術に応用、日々最新の技術が研究開発されています。